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◆白夜◆ |
第二十一話 〜1〜 |
同じ過ちを何度と繰り返すほどには馬鹿ではないと思っている。 シモンはまだ体に力が残っているのを感じながらもダンスを切り上げることにした。 パーティーもすでに最終日。これが終わればようやく帰ることができるわけである。ダンスは好きの範疇だが三日間踊り続けられるほどではない。さすがにそろそろ体が痛い。 しかし、とシモンは思う。 (帰ったら文がたくさん届いてるかも) でもそれはシモンの仕事ではない。クリスが考え、返事をすればいい。知ったことじゃない。 昨日と今日、そう長くない時間だが雷竜の王子と会話をした。ダンスの好きでない彼はパーティーがつまらないようであった。 そのうち、共に遊ぶことを約束し別れた。 今度はテーブルにへたり込むのではなく外へ出て新鮮な風を受けよう。そう決めたシモンはテラスへと出る。 風竜ほどには気持ちよくはなかったが、それなりにいい風が吹いている。揺れて頬に触れる髪の毛がくすぐったい。 「先客?」 似たような人というのはどこにでもいるようだ。疲れたのか、それともうっとおしいのか。テラスの手すりに体を預けている少年に声をかける。少年といっても年は2・3は上の様子であったが。 「休憩ですか?」 ばっと急に振り返った少年にびっくりする。何か驚かしてしまったのだろうか? 少年はその反応がなかったかのように振舞う。 「ああ」 ずいぶんぶっきらぼうだったが、次の一言は声を和らげ、 「何か用が?」 「いえ、同じように休んでいた人がいたので。僕はクリス=シルフィード=ウィンディー。風竜の第二王子に当たります」 少年は手すりから体を離す。品定めをするようにシモンをみたあと、その鋭い瞳を細めた。 「あの風竜の王子の弟か。うわさ程度には有能そうだな。お前のほうがずっといい。付き合いやすそうだ。わた……俺の名はロザリー=ネーレリア=アクアシェル。ロザリアと呼べ。水竜の後継者だ。第二王子のお前にはそう合うこともないだろうが。三竜の間柄、よろしく頼む」 三竜……水竜王国をリーダーとするまとまりで水竜のほかに風竜王国・土の竜王国がそれに当たり、魔術を推進し、科学を否定するまとまりだ。といっても風竜王国と土の竜王国はたいして厳しくないが。 「あ、はい」 なんだかとても偉そうな口調でしゃべる少年。普段ならばこういった態度に軽い苛立ちを覚えるところだが、彼にはなぜか苛立ちを感じることはなかった。 なぜだろう? 彼はまた手すりに体を預けた。会話を拒絶する……というかもう話すことは無いという意味かと思い、テラスを出てゆこうとしたときに声を掛けられる。 「待て。……暇なら話でもしていかないか? サボっている理由がほしい」 その言葉にシモンは軽く微笑む。どこの王子様も同じようなもののようだ。 「お前は王であることを重荷に思ったことは無いか?」 「あまり、無いですねー。元々僕は第二王子ですから。……最近は色々な人が僕に期待を掛けてくれてるようです。でも兄様は性格はアレですけど、王としての資質は普通以上にはありますし、大して問題はないですよ」 (というのは本人談。私はぜんぜんそうは思わない……のだけど) といっても、それを他の王子に言うわけにはいかないだろう。シモンはクリスが王になってしまえばいいと思っているのだが、どーもクリスにはやる気を感じない。まあ、あいつは適当に生きていくのだろう。 「――ふうん。気楽なもんだな。なら、術者や剣士としてはどうだ? なかなかにいい腕をしていると聞いている。別にほかの事でもいい。何か、重荷に思うことだ」 「それは、あります。秘密ですけど」 (重荷とは少し違うかもしれないけれど) 今、こうしているのだってそうだ。いつバレるのではないかと思っている。でもまあ、クリスは今までそう多くパーティーに参加したというわけではないから問題はないけれど、時に罪悪感を感じる。それは多少にぴりりと痛いもの。 クリスに向けられる好意に痛む。人をだます事は元々そんなにいいものじゃない。それが、彼を信頼してくれている人間ならば当然に。 「秘密ね。まあ、いい。なあ、例えなんだが、お前だったら他人に成りすますのってどう思う?」 その問いにシモンは心臓が破裂するんじゃないかというほどにどきりとした。 ――バレた!? バレた!? なるべく顔に出さないようにしてロザリアの顔を見る。目を細め、遠くを見るようにする彼の表情からは嘘や欺瞞を見破ったときに現れるような――勝ち誇ったものや咎めるような表情は無い。どうやら純粋な質問のようだ。 「どうした? そんなに難しい質問じゃないだろう?」 (難しい質問よぉ〜) 悩むシモン。この場合はどちらで答えるべきだろうか? クリス? シモン? でもまあ、クリスがどう答えるか分からなかったので、自分だったらと考えた。 「あんまり、好ましくは無いですよね。自分でないものになるのですから。僕だったら嫌です。僕は、僕でその他人じゃないですから」 自分で言ったことに苦しむ。ああああ。そーいいつつ私はシモンになってる……。 「じゃあ、そうしなければいけないと他人に言われたらどうする? お前はこれからクリスではなく、ロザリー=ネーレリア=アクアシェルだ、とか言われたら受け入れられるか?」 「それは……」 「いや、やはりいい。どっちの答えを聞いても解決にはなりそうにない」 ロザリアは視線をシモンから外すと外へと向ける。何も話さず、ただ眺めつ続けるロザリアを見てシモンはなんとなく立ち去る気にはならなかった。 (何かが引っかかる) なぜだろうか? 何かが納得いかない。いや、別にロザリアの話や態度が引っかかるのではなく、何か同じようなものを感じるというか。 風が吹いた。 ふわりと揺れる青い髪は光に透けている。風に舞い上がる髪の毛が首を見せた。 細い、というか簡単に壊れそうなほどに白く、頼りない。貧弱というのではなく、――柔らかそう? シモンはロザリアの顔を良く見てみた。自分の中で生まれた疑惑。それはついついと口から飛び出て行ってしまった。 「あなたは、女の子?」 その言葉にロザリアはばっと体をひるがえした。向けられた目は大きく見開かれ、誰が見てもそれは疑問を肯定する態度であった。 「あ、やっぱりそうなんですか。それじゃあ、女の人と踊っても面白くないかもしれませんよねー」 私は面白かったけれどね。でもまあ、それは余裕の差なのだろうと思う。彼、いや、彼女は望んでやっていることではないのだろう。他人になるというのは大げさな話であるが、何らかの事情があり、それは本人にとって好まざるもののはずだ。 「なんでわかった?」 「いえ、なんとなくですけど。別に誰にも言わないから安心していいですよ」 「別に、言いふらされても問題があるわけじゃないよ。――風竜の第二王子は話以上に鼻がきくな」 「なんで、とは聞く必要はないですよね。水竜王家は男しか生まれないそうですし……」 「近い、けど、あたりじゃあ、ない」 ロザリアは自分の中にある悩みを吐き出すようにシモンに語り始めた……。 |
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