|back/home/index/next| |
◆白夜◆ |
第三十一話 〜1〜 |
「ほう。同時か」 数々の罠に遭いながらも、ジョイル王子の『急げ』の一言にがんがんと進む。槍が降ったり、焼かれたり、痺れたり、凍ったり。 さまざまなハプニングを越えて、今ここにいる。 「リューク、すごいな。あっち、ぜんぜん無傷だぞ? 俺らは召喚獣を先に進ませてたのにこのざまなのに」 まったく、この男は……。 ソルトは能天気なセリフを堂々と放つ。王子に青筋が出るのがわかった。 「大方、凄腕の冒険者か、その方面に長けた魔道士がいるんだろう。召喚獣を囮にして進むほうが非常識なだけだ」 「そうしろっていったのリュークじゃん」 「……仕方ないだろう。こちらにはその道の人間がいなかったのだから」 困ったことに、僕ら以外の二人の人間は、見るからに三流で、でも、腕だけは一流の抜けた感じな殺し屋だった。 言うならば、殺しはできなさそうだが、腕はよい、か。 見る目がなかったのか、実は弟を少なくても今は殺す気がないのか……。真意だけは測れない。 彼らは、剣の使い手であった。一流の、剣のみに鍛えられた人間は、少数の戦いであれば魔道士を簡単に屠れる。 それは、詠唱やタメの問題である、が。 「強いのがいるな……。金髪の」 「美女だなぁ。すっごいわ。あんだけ美人はマーメイドにもエルフにもいないよな。……都会ってすごいなあ」 「……バカか。黙っていろ、田舎もの」 「クリス。すべてが、今日決まる。王は一人だ」 「兄様……」 「行くぞ。リューク、ソルト。……やつらを倒せ」 そう言うと、ジョイルは先に進むための道へ行く。僕らもそれについて行き、後ろを見れば、肩を落とす第二王子とその仲間。 「つらいかねえ。やっぱ」 このまま、彼らがへこんだままならば何事もなく、すんなりと行くが……。 そう簡単にはいかないだろうと思う。それは空気。彼らの中に、確実にこちらと戦う意思を持つものがいる。何かを企んでいる。 ソルトがさっき美女といった人物。あれからはおかしな匂いがする。すべての匂いを混ぜたような淀んだ匂い。 人間としてや、女としての香りでなく、魔力の香り。さまざまな属性のにおいが混じったような、複雑な、でもそれに魅入られるような強大な力。 (僕たち全員でも、大して足止めにならないレベルだな。戦わずにいられるなら、それに越したことはないな) しかし、世の中には予想してしかるべきと後では思うのだけれども、そのときには全然思いもしないこと、すなわちバカが突然こう言った。 「男は、戦って何かを得るんだっ!」 ば、バカかあ!! その言葉に、肩を落としていたクリス王子の目に光が宿り、それにつられるように全員がやる気になったようだ。 「バカかっ! あのままでいいだろう、あのままで!」 「お、戦う気みたいだぜー。やっぱ少年は壁に出会ったらぶち当たるくらいじゃないとなー? リューク」 「バカという壁に僕はぶち当たっているがな」 「そりゃ、大変だな。どうしたんだ?」 リュークはソルトの首を締め上げると、がくがくと揺らす。 「750はいらんようだな。250はしっかりと足止めしたら払おう。……少し、見ててやる。やってみろ」 (バカは、死んでもバカ、か) 何かをあきらめ、リュークはきりっとクリス一行を見る。 「君のお小遣いはあきらめろ。……始めから、本気で行くぞ。悟られる前に倒せ」 「風舞う空に、訪れる雷。空を染める、黄金よ。大地に落ちて、怒りとなれ!召喚! ラムウ!!」 「地響くものよ、唸る者よ。大地を揺らせし、存在を示せ! 汝は世界を揺らすものよ! 召喚! タイタン!!」 リュークとソルトの二人はしっかりと手を結び、体から放出される魔力の力に耐える。偽竜に使った召喚以上の力。強大でいて、大きくならないように力を込めるのは非常に困難だ。 『合成召喚! トール!!』 雷だけで体を構成する高位なる存在。雷の化身。神竜か、雷を無効とする、タイプの化け物でもなければ、これを止めることはできないはず。 殺さないように命令を刻み、突撃させた。 「終わりだ。どんなに強い魔道士でも、これだけ強力ならば、数時間痺れ続けはする」 そう、そうなればこの争いは終わり。 トールという名を持つ、雷が彼らに襲い掛かる。しかし、トールはその進む先を一行全員にぶち当たるのではなく、方向を急に変え、緑色の髪の少女へと向かう。しかも、そこに手加減の気配がない。 「殺す気かっ!?」 しかし、驚くべきことが起こった。水が布に落ちたとき、染み込んで消えるように、トールもまた、少女に染み込むように消えていった。 「……ライトニングイーター?」 雷を喰らう生き物は存在する。しかし、その能力を持つ人間がいるとは思えない。かといって、力でかき消したのでもない。吸い寄せられるようにして、喰われた。 「役立たずか」 後ろから放たれた、ジョイル王子の言葉に、身を貫かれる思いであった。中々言ってくれる。 「ちがうな。多分、雷がどうこうって感じじゃない……。狂える水よ、立てる雄叫びよ。世界の果てまで響け。召喚!オンディーヌ!」 上級の水精をソルトは召喚し、トールと同じように突撃させる。結果もまた、トールと同じように少女に染み込むようにして消えた。 「……ん、OK。リューク。お前ってたしか量より質だよな。召喚」 「そうだが?」 ソルトはそういうと、クリス王子のほうへと走り出した。何を……。 「美女さんは任せたぜ!!」 ……一体、何を考えてるんだっ!? |
<モドル><メールフォーム><ツヅキ> ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ |
Copyright 2003 nyaitomea. All rights reserved |