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*陰みょる者的日々*
その十






 長い十分間を一人寂しく寝て過ごす。
 ちょっとどうかと思わないでもないのだが、うろうろして時間を潰すのもどうかなーっと。

 しかし、一体何のようなのだろうか。
 そんなことを考えながら歩けば、ほら。
 いつのまにか体育館前。

「赤坂〜?」

 呼んでみると『こっちだよー』と人目のなく、あからさまになんだか嫌な空気が漂いそうなほうから声がした。
 すべてを忘却のかなたに押し込め、この場を去りたいのも山々。
 だけど勇気を出し、一歩・二歩・三歩。
 おし、歩ける。なんでもこいやー!

 そんな感じに気合を入れて、声の方へと行く。

「お、ここだよここ。じゃあ、達也君。約束守ってよ? あ、ユッキー用事は私じゃなくて立川君があるから。じゃあね。オホホ。ではでは。ここいらで若人たちのためにお席をはずしますわ〜と」
「おいこら。何、その嫌な笑い方は。まるで、みあ……はっ、まさかこれはトラップ!?」
「ふはは。ユッキー。体育館と聞いた時点で明日に走り去らなかったあなたの負けよっ」
「くっ、さすがね、赤坂。あんまりなめたことやると京ちゃんvって呼ぶわよ」
「ぐっ、さすが我が友。それはぜひやめてほしいとお願いいたします」

 和気藹々とした友人との掛け合い的な会話がヒートアップ。
 その世界には誰も入れない。
 ……はずだったが、この場にいる、女性でない存在、つまり立川君が声をかける。

「あ、赤坂?」
「はっ、そうだった。ってことで、よろしくユッキー」
「むう。このまま話し込んで疲れたから帰ろうって話しにもって行くつもりだったのに」
「さすがに姑息だよね。それって。……ってことで、じゃ〜ね〜」
「ああ!?」

 赤坂は手をぶんぶんと大きく振りながら、笑顔を浮かべて去って行きやがりました。つまり、残されたのは私と立川君な訳です。……何故に。

「あの……」

 突然、でも無く流れ的には当然であるけども、声をかけられ私はびくりと体を震わす。……なに、やってんの。いつもの、ことでしょう。

 赤坂が薦めたのは珍しいことだけど仲を取り持って、みたいな事はよくあること。あいつがやるんだから、きっとやらなくてもやってもこういうことにはなったんだろう。
 だから、いつものようにすればいい。……でも、

「何?」

 先ほどまでの、明るい声とは打って変わった冷たい声に彼は躊躇する。
 この程度で、言わないでくれるならそれがいい。
 人が傷つくのは嫌だ。
 でも、相手を傷つけないためにひっそりと自分が傷つくのも嫌だ。

「あ、そのいきなりだけど、俺、君のことが好きで……その、まいったな。上手く言葉が出ない。……付き合ってほしい」

 その言葉に、動揺を見せず、冷たくじっと相手を見つめる。
 時間を与えろ、言葉だけでなく態度を示せ。
 言うまでも無く、だめだということを示せ。
 
 黙っていると、彼のほうから口を開く。

「だめ、かな?」
「……うん」
「なん、で? もしかして、好きな人いる?」
「いない」
「ならな……」

 言葉を途中でさえぎり続ける。

「なんで、私が好きなの?」

 定番だなあと、心の中で思う。
 でも、何故好きかを口で言うのって難しい。
 何かひとつだけの要素を好きになるわけではないから。

 だから、こういう問いを言われたときに答えてしまうのは、印象に強いもの。
 そして、見た目、形、行動。
 そのあとに、『それだけ?』って言えば詰まって、きっとなんとかなる。

「えっと、あ〜、白月さんは、美人で、優しくて、明るくて……」

「それだけ?」
「……口で言うのって、難しいな。白月さんってさ、なんつーか理想なんだよ。欠けたとこないって感じでさ。で、なのに、時折不完全っていうか、不安定なとこが見え隠くれするときがあって。だからいっしょにいたい」

 意外な言葉に、胸が打たれた感じがする。
 そう、彼には不安定な部分が見えるのか。見た目だけで、私に告白し、付き合うことを強要する輩とは少し違うらしい。

 そういうところ、赤坂は見抜いていたのかなあと考える。
 なら、許してあげなくも無いって感じ。でも付き合うか合わないかは別であるけれど。

「……そうだね。私、自分でもそう思うよ。
なんでもできる子だからね。でも、何でもできることは私には価値は無くて、欠けた物だけが私にとってのすべて。
だから、付き合えない。そんな暇が無いから」

 そうだ、私にはそんな暇は無い。だから、そんな真っ直ぐに私を見ないでほしい。なんだか、胸に痛いよ。

「俺じゃ、手伝えない?」
「うん。無理。誰だって、無理。辛いんだ。欠けたものをそのままにしておくって。みんなね、誰もが言うんだよ。お前は完璧だーってね。
学生だし、勉強できるって大きなこと。見た目がいいって大きいこと。
でも、それだけじゃないから、私はつきあえない」
「俺にできることなら、なんでも、するよ?」
「だめなの。あなたじゃ」

 俯く立川君。でも仕方ない。しょうがない。

「……そう、そっか。……誰ならいいのかなあ。白月さんを救うのって」
「誰でも、無理」
「そう、かな? 白月さんはそういうけど、なんとなくあの転校生にはできそうな気がするんだよ……」
「大空くん?」
「うん。だから、告白した。取られる前に、奪いたくて。はは、変だな、俺。振られたのにその相手に男薦めちゃってさ。……がんばれよ、白月さん……」

 立川君は別れを告げて、その場を去る。
 残された私は、ぼんやりと、体育館の壁を見つめる。

 年をとり、白かった壁は色を得る。それは不幸か幸運か。
 ……なんだか、寂しいなあ。

「ふったのね。いい男だったんじゃない? 理解ありそうだし」
「むっ、人形。人がいないとこだけど、学校の敷地内ではしゃべらないでよって言ったでしょ」
「人形呼ぶな。名前教えたんだから名前で呼びなさい、へっぽこ退魔士」
「夕玉、言うわね。……まあ、いい人だったとは思うけど」
「何で、断ったの?」

 バッグの中から聞こえる夕玉の問いになんと答えようか、頭の中で言葉を選ぶ。しかし、バッグの中の声に答える様は、バッグに話しかけるようで少し嫌だ。

「……私は、退魔の家の娘で、当主なの。当主にふさわしい実力を付けたいと思っているし、第一、秘密を持ったままって言うのがなんだかなーって感じだし。
時間無いし、バイトあるし、お金ないし、貧乏だし。
それに人形がしゃべるし」
「最後のは関係ないでしょっ」
「いいの、いいの。関係あり。気にしてくれていいから」
「意味わかんないわよっ。第一、コンプレックスって何よ。自分がへっぽこ退魔士だってこと?」

 その問いには答えず、背負っていた学生カバンをどすんと地面に落とし、上を、空を見上げながら、う〜んと背伸びをする。
 下からの罵声をBGMに冬歌はこう言った。

「どこかにいい男いないかなー?」
「あんた、矛盾しすぎなのよー!!」

 そんな、ある日のことでした。



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