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◆白夜◆ |
第十一話 〜1〜 |
「あいつっ」 物陰に隠れながらシモンは大通りのほうを見る。そこにはクリスとその兄ジョイル。そしてその手下っぽい少年と青年。クリスと手下はやる気がないようだが、ジョイルは違いそうに見えた。 弟に毒を仕掛ける彼なら勝負前に足の一本や二本……位はするクズだ。 シモンは後ろで遠見という名の双眼鏡に似たアーティファクトを使ってそれを眺めているマリアに声をかけた。 「マリアちゃん。どうしよう?」 「そうですね。一応様子を見ましょう。もし何かをするようなら、本気で相手をします。勝負前に何かをするような相手なら、王子といえど足の一本や二本くらいは折ってしまいましょう」 シモンは彼らのほうを向いた。いい笑顔で怖いことをマリアが言っていたからだ。 ◆◆◇◆◆ 「兄様。なんのようですか? これでも僕は忙しいんです」 クリスは周りを見る。野次馬は集まっているようだが、警備兵はいない。まあ、助けはないと思うほうが無難かもしれない。 「別に。ただ、様子を見に来ただけだ。後ろのこいつらは凄腕だ。これが終わればお前は城を出て行く身。兄としてお前の様子を見に来てやったのさ」 ジョイルの後ろには知的な少年と子供に好かれそうな顔の少年と青年の狭間くらいの男がいた。二人から感じられる力は確かに只者ではないだろう。軽く見ても聖騎士二・三人くらいの実力はありそうだ。 (困ったなあ。これじゃあ、生き延びることも難しそうだよ……) 「そりゃどうも。でも僕は死ぬ気も城から出て行く気もないです」 王といえど何か罪でもなければ兄弟を追い出すのは難しい。 (殺されなければ……殺されなければまだ大丈夫。大丈夫。けど、遅いよ、サラさん。連絡取ったんだけどなあ) 「……へえ。なるほど、な。それはあの糞メイドのためか? あいつは国のものだからなぁ。王になったらあいつをお前の変わりにたっぷりかわいがってやるぜ?」 がっ、身長差のため、顔には届かない。腕はジョイルの胸を打つ。その手をジョイルに握られる。 そしてはっとする。しまった。わざと打たせたのだ。 見えたのは足。蹴られる……そう思った。瞬時に魔道式を展開してプロテスを使う。速度を上げるため精度はずいぶん落ちたが少しは痛みが和らぐはずだ。 目をぎゅっとつぶり、体に力を入れる。しかしいつまでも衝撃は来なかった。 「大人がっ! 何してるんですかっ!」 目の前にいるのは青がかった長い髪の少女。ジョイルの足を手で防ぎ、クリスをかばうように立つ。3つ程クリスより年が上だろうか。少女はこちらを見て安心させるように優しく笑う。ちょっとドキッとした。 「大丈夫?」 ジョイルは足を引くと後ろに跳び、距離をとる。少女は、顔をジョイルに向けると構える。武術の心得があるのだろうか? 非常に様になっていた。 クリスは顔に出さず嘆息する。やはり城で教わる体術など実戦ではそう、役に立たない。まあ、平和な国だからしょうがないか。魔術のほうの教育は実践以上のものであったし。 「大丈夫です。ええっと。名前は?」 「マナ。マナ=ムーンライトです」 (ムーンライト。ああ、全国で手広くやってる商人の家か) 「ありがとうございます。でも、兄弟喧嘩ですから気にしなくていいです」 「喧嘩って、これは……」 クリスはマナより前に一歩出て、手でマナを遮る。 「兄様。こんなところでやらなくても、ちゃんと勝負で負けてあげます」 「……貴様っ」 ジョイルはぎりりと唇をかむ。 ちょっといい言い過ぎちゃったか。でも、そうでもないとマナさんまで被害及びそう。普通の娘さんだけど、かわいいから。後宮入りなんてなったらかわいそうだしね。 「いいだろう。だが、生意気なことを言う弟には少し、お仕置きが必要だな」 (さて、どうしよう。本気でやりあえば、殺し合いになる。そうすれば後ろの二人がいる兄様の有利。無抵抗なら足の一・二本折られて勝負時に逃げ切れないか……うう〜ん) 「待ちなさい。クリスをいじめたら私が相手になるわよ?」 現れたのは金髪の女神を思わせる女性。二つ名に金の魔王、覇天の魔女と言われるほどの有名な冒険者。サラ=ワードウェルだった。 「サラさんっ! 遅いじゃないですか。待ってたんですよー」 「ごめんごめん。それより……ジョイル。あんた、本気なのね。この国に帰ってきたのは最近だから詳しいことまでは知らないけど。弟を殺す気?」 ジョイルは殺気立った気配をきる。 「ふっ、相変わらず美しいな。サラ。そんなガキのお守りなんてやってないで俺の妻になれ」 「お断りよ」 「まあ、いいさ。王になった暁には力でもって妻としてやろう」 「その前に国の外へ逃げるわよ」 「サラさ〜んそれはひどいよー」 「……引きなさい。私、一ヵ月後の勝負に参加するわ」 ジョイルはサラのことを睨み付ける。クリスが何かを言おうとしたとき、野次馬のいるほうから声がかけられる。一瞬警備兵かと思ったが、彼は親しげにマナへと近づく。 「ってマナじゃねーか」 男はそういう。名を知ってるからには知り合いではあるのだろう。その証拠に、マナは彼を見ると安堵したように見えた。 「あれ、お兄ちゃん」 「なにやってるんだよ。それにルカは?」 ルカ!? クリスはちらりとサラのほうを向く。それに気づいたかどうかはわからない。小声だったから。クリスは力を使い風を吹かし音を散らす。魔力として感知されない程度の極わずか。効果はあるだろうか。 「えーと、ルカさんはさっきどっかいっちゃった。それにこれは……」 「マナさんのお兄さんですか? 僕、クリスっていいます。気にしないでいいですよー。ただの兄弟喧嘩ですから」 話に割り込む。 「……喧嘩はよそでやれ」 「ごもっともなんですけどねー」 クリスは視線を彼からジョイルへと向ける。 「興ざめした。帰るぞ。リューク。ソルト」 「……ああ。いいだろう」 「すまんな。これもお仕事……だからな」 二人も一緒にこの場を去る。そして、ようやく警備兵がここへ来る。 兄様の優秀な執事が何か裏工作をしたのだろうか。見事なタイミングであった。 「あの。お二人とも、一ヵ月後、お暇ですか?」 クリスは彼らに命を任せてみようかなーなどと場のノリで思った。 |
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