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◆白夜◆ |
第十六話 |
少女を前にし、勉学に励む日が数日続いた。 「くはあ。分からん。第一難しすぎんだよ。日本語」 あの後、部屋を荒らしつくし、見つけたのは『起動マニュアル』と書いてある本。 しかし、基本として使われているのは古代言語である日本語。無論俺はアーティファクトを学んできたのだ。日本語はしゃべれないが大抵のことは分かる。 分かるんだが、いくらなんでも専門用語だらけの本は無理。小説くらいなら読めるんだがなあ。 「名前はフリージア。対魔道式装備とあ…〜欠片を、あ〜、なんだ? うけ、受け皿? する。え〜、その、目的……は? 紙……神か。を破る、こと。 はあ? 意味分からん。わが、わが娘。恨み辛み……じゃなくて。あー、わからん。読めん。とばそ。……起動? ……このあたりか。ようやくだな」 などと苦労に苦労を重ねた。水は手に入ったし食料もあったのだが、なにぶん資料がない。本来なら学校へでも持っていって調べたいところだが、めんどくさい。往復やら、自分がもう生徒じゃないことやらを考えれば仕方がないことだ。うむ。決して怠惰じゃないぞ。 それになんとなくだが、もう少しで何とかできそうな気がする。……昨日もそう思ってたが。 「……わかりません」 素直になろう。大切なのは知識だ。うむ。ひらめきじゃどうにもならん。 「無理だ」 俺は少女の方を見る。相変わらず変化はなく、浮き上がる泡に髪を揺らすだけ。俺の視線はその下。見事な出っ張りに向けられた。 「うう、押したい……。だ、だが……っく。卑劣なっ」 ボタンだった。他の装置がこまごまとしていたり、キー状だったりするのに、あからさまに異質。異質かつ、人を魅せる力のあるもの。ボ・タ・ン 「ぽ、ぽちっとな」 押してしまった。ほんの少し後悔した。そういう類のボタンを押して罠が作動した系は数多くあるからだ。だが、後悔以上に満足があった。 快感。 「くうっ、自分が自分じゃないみたいだ」 ついでに言えば何言ってるんだ。俺? 音もなく、少女の入っているガラスから液体が抜けていく。 「ビ、ビンゴ!? ……ふっ、やはりな。大切なのはひらめきだ。うん」 液体は管を通し、どこかへと排出される。ガラスが開かれ、少女は崩れ落ちる。数秒の静止後、ゆっくりと顔を上げる。裸の少女なわけだが、がきんちょ。しかもイメージ的に天使なので素直に綺麗だと思った。手を差し伸べることも忘れ、一挙一動を見守る。 「……」 少女はこちらに何かを言う。別に声が小さくて聞こえなかったんじゃない。意味が分からなかっただけだ。あのなあ。学生程度に生きた古代語がわかるかっ。ということで、少女が日本語を話したのはわかる。まあ、一応だけ。 「フリージア?」 とりあえず、呼んでみる。大切なのはお互いに名前を呼び合うことだろう。あと挨拶。とりあえず、こっちの名前を呼ばせれば勝ちである。なんとなく気分的に。 「……」 またもや何かをいい、はってこっちへと近づいてくる。その顔にあるのは“興味” 「なっ」 今までと同じように俺は動けないでいた。そんな俺をフリージアはぺたぺたとさわる。ぐいっと顔を近づけると、おでことおでこをくっつけた。 「おわっ」 フリージアは体を離す。 「はじめ、まして」 古代語ではなかった。 「は、はじめまして」 言い終えるとフリージアは目を閉じ、倒れる。 「なっ、おい、大丈夫か!?」 何十秒か待ってみるも、起きない。人間なら脈を計るところだが……。アーティファクト人形じゃなあ。とりあえず手首を触ってみる。 トクン 心臓が動き、血が巡る。その証拠たる振動がした。 「うへえ。まるで人間だな……。アーティファクトサーチがなかったら人間かと勘違いしてるとこだ」 アーティファクトサーチはその名のとおり、アーティファクトの存在をサーチする道具だ。使うのに時間が数秒いり、面倒だが正確だ。これにひっかかる人間はいないし、ひっかからないアーティファクトは……まあ、ないわけじゃないけどな。 「……とりあえず、連れてくか」 自分の予備の服を着せる。だぼだぼだが、ないよかましだ。うむ。普通に連れて帰ると犯罪者に見えるしな。 研究所を出る。あの扉は慣れれば普通だ。自分から飛び込むように進めばさっさと、出入りできる。俺の前には前と変わらぬただっぴろい部屋があった。 「あ〜、そういや帰るの面倒だな……。ゴブリンとかスライムとかまだまだいそうだしな」 しかもフリージアをおんぶして、だ。軽いが手がふさがる。 「なら手伝おうか?」 そこにはイメージとは違う天使、ルカがいた。相変わらず黒い服を着ている。 「……なんでいるんだ」 「人の親切を質問で返すのはよくないね」 「まあ、いいけどな」 「……フリージアを手にしたようだね。心配せずとも一晩もあれば目覚めるはずだ。それはキミと、世界と……キミの妹の運命を握る存在。……決して奪わせるな。守りきれ。別に難しいことじゃないよ。その小さな手をつかんで離さないでいればいいんだから」 たくさんの謎と困惑。だが、今はこいつの言葉を信じて進むしかない。 「さて、急ごうか。あんまり長居するとどこからともなく猫がかぎつけてくるからね」 「猫? なんだそりゃあ……」 天使は猫が嫌いなのか? だったらうけるんだがなぁ。 そんなことを考えていると、ルカがこっちへ近づいてくる。とてとてと近づくその様子は子供みたいでほほえましい。ほんとは年なんだが見た目だけ。天使的には若いんだろーか。 俺と、ルカの足元に巨大な魔方陣が現れ、光を上げる。俺たちは輝きに包まれ、気がつけば見覚えのある建物の中にいた。 「あ、おかえんなさーい」 「うお、マナ。ここは家か。すげーな。転送の魔術って普通、アーティファクト使ってポイント指定しないとできないんだろ? 天使はお得だな」 「まあ、そうかもね」 大人の道具をほしがる子供を見るような目で俺を見るルカ。そんな表情しても顔も体もお子様だ。ギャップがちょっとだけおかしかった。 しっかし、なんつーか、あー疲れた。 もう、日本語はみたくねー。 |
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