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◆白夜◆ |
第二十四話 〜1〜 |
闇深き 森に隠るる 油虫 一句できてしまった。古代語の歌を瞬時にして作れるなんて自分の才能が怖いぜ。 なんてあほな事、言ってられんな。 まあ、簡単に今の状況を言えば盗賊にかこまれてるってことだ。あっはっは。困ったねー。 「どーする?」 「じゃ、私が七ね。なるべくマナちゃんは馬車の入り口付近で戦闘。こう見えてこの馬車弓くらいなら弾くから入り口から入られなきゃ危険ないし」 「サラさん、もしかしてこうなるの分かってたんですか?」 場所は木々の深い場所で、ここだけは真夜中のような闇色だった。つい数分前までは地面は赤々と夕日に染められたいたのだが。 多数の人間がたてる草の音に俺は半睡眠状態だったのを起こし、警戒した。それに気づいたのはサラとマナだけだったようで、フリージアとクリスはすやすやと寝ていた。のんきなものだ。 それだけ信頼してるってことなのかもしれないが、王子がそれでいいのだろうか? フリージアは、まあ、俺に言うな。あの子はよく分からん。 「まあ、ね。ちょっと期待してた。ほら、一緒に行動する人たちの実力は把握しておいたほうがいいでしょ? あと準備運動もかねるし」 「そりゃ合理的だな」 呆れた。冒険者の連中はちょいと向こう見ずなところがあるが、彼女もそんなところがあるようだ。いや、違うか。自分の実力を信じきってるんだな。羨ましい。とことんに信じられるものって友人でも何でもいいけどもってるってすごいことだもんな。 ……巻き込むのはどうかと思うが。 「で? どーやってはじめる?」 音や気配、そんなものから判断して、後ろは見通しがいいからいないが、両脇に隠れているのは間違いない。襲うと同時に部隊の半分が前と後ろに分かれる。包囲完了だ。 ちらりと皆の顔を見る。はっ! しまった。こらやばい。 女ばっかじゃん。サラは絶世の美人。マナとフリージアはとっても可愛い。クリスは見た目もいいし王族だ。俺はといえば、こいつらに比べて見劣りすることばっちしだ。 いやまあ、悪くはないと思うんだけどね。男だしねー。とりあえず殺されるな。まあ、他のやつらも捕まればヤバイがチャンスは俺よりはある。 そんな事実に気づき、俺は気合を入れた。 ◆◆◇◆◆ 俺とサラとマナはゆっくりと馬車を降りた。前もって決めたように俺とサラは馬車からちょっと先まで歩み、マナは馬車入り口近めの場所で待機。俺とサラは手を上げる。 「囲んでるのは分かってる。取引をしよう!」 こういう反応は彼らの想像の範疇なのだろう。周囲に同様はなく、しかし、準備が始まったのは分かった。後ろに回られ始めている。 「ほう、いい度胸だな?」 おお。セオリーどうりだ。さすが。出てきたのは悪人ずらもいいところのオッサンだった。しかし、全身は鍛えられてることを示す筋肉でいっぱいであり、腰にさしたシミターが彼を頭目らしく仕立てている。衣服は真っ黒で油虫にふさわしいカッコだ。 「それで? 取引とは?」 今度は俺ではなくサラが答える。俺がまず声をかけ、ボディーガード的な役割を示し、サラが取引内容を話すことで抵抗する気がないのを示す。事実彼らには緊張とは違う緩み、歪んだ感情が漂っていた。 「私たちはある貴族の娘のお忍びで来ています。風竜王国で数日の――」 「その辺りはいいさ。で?」 サラは顔に少しの同様を見せる……が一瞬で元の冷静な表情に戻る。芸が細かいなぁ。 「私たちはアーティファクトを所有しています。売れば一般人ならば一生を遊んでいける代物です。これをお譲りするのでお見逃しいただけないでしょうか?」 頭目は腕を組み、少し考える。まあ、振りだろ。 「いいだろう。だがまずそれを渡せ」 サラは手に持っているオーブをさっきまでいた場所と頭目との間辺りの場所まで移動してそこに置く。そしてまた同じ辺りまで戻る。 こちらも少しは頭が回るんだぜってポーズだ。 頭目はオーブを手に取るとしげしげと眺める。 「困ったな。どうも俺には偽物に見える。……交渉は決裂だ。女。あんたの体と貴族のお嬢さんの体で満足してやるとしよう」 ほーら来た。だがそれは予想どうりの反応だ。サラはアーティファクト起動の言葉を口にすると頭目に向かって走り出した。 「があっ!?」 頭目はオーブを手から落とす。何でもサラいわく、電気が流れてしびれる装置だそうな。 「はい、いっちょ上がりっ!」 サラは頭目の腹に手を当て、魔術を使う。無属性の魔術の中でも簡単・強いな魔術。ショットだ。魔力を衝撃に変換するだけだが使う人間が使えば相当なものになる。 頭目は声も上げずに倒れる。吹っ飛ばなかったからそんなに強くはないな。死にはしてないだろ。さ、やるか。 「マナ! やるぞっ」 ぞろぞろと出てきたのは30人程度。まあ、竜王国近いからこんなものか。 ◆◆◇◆◆ 相手はそんなに強くはなかった。弱くもなかったけど。 四人ほどに囲まれていたが、一人にだけ攻撃を集中し、あとのは牽制程度に動く。敵は一人一人と減っていった。 「なにやってんだ、あいつ……」 どうもサラの様子がおかしい。こっちが必死こいて一人倒す間に四、五人を倒していたのだがめっきりペースが落ち、俺と同じくらいの割合になってきた。 見ていて気づいたのだが、どうも森の奥にちらちらと視線を向けている。 何かがいるのだろうか? まあ、とりあえず置いとくか。 俺はマナのほうへと向かう。どうやらなるべく傷つけないように戦っているようで何人もの盗賊をまだ相手していた。まあ、マナが返り血で赤く染まっていて、周りには死体が溢れてた、なんて状況はありえないが。つーかあったらヤダよ。 一人でできないことでも二人ならやれる。 おお、なんかいい言葉だ。マナと二人で戦いだすと一気に盗賊たちを倒していけるようになった。俺が剣で敵の攻撃を防ぎ、マナが相手を気絶させる。ベストな感じだな。 そんな感じで、残り十人程になったときに森の奥から手をたたく音が聞こえてきた。 方向は、サラがちらちらと見てたほうだ。 「定番で悪いが、あんた誰だ?」 ゆっくりと闇の中を歩み、近寄ってくる。次第にその姿が判別できるようになった。 それは、この場にはそぐわぬものだった……。 |
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