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◆白夜◆ |
第二十四話 〜2〜 |
手と手を打ち合わせる音が森の中に響く。拍手という行為が先ほどまでの闘争に静寂を与える。 突然の登場に戸惑いを感じたのは俺らだけではなく、盗賊の皆さんも同じようであった。 サラは盗賊たちから距離をとる。 「だれですか……。そういわれても困りますけどねえ?」 そいつはニコニコと笑う。 ここが、ここが太陽のさんさんと輝く大地で、近くに畑があったり、豚とか牛とかが飼われていれば、そう問題はなかった。むしろいて当然の存在だ。 癖の強そうなブラウンの髪の毛。瞳も髪の毛と同じ、少しばかり黒い茶色。肌は日に焼けており、体は年にしては丈夫そうだ。顔には鼻を中心にたくさんのそばかす。 ……見た目、ただの農家の少年だった。 夜に近い時刻でこのような場所にいるべき人間ではない。 最初に行動に移ったのは一人の盗賊だった。一番少年に近い位置にいた彼は少年に襲い掛かった。 「ありゃ。邪魔されると困るんですけどねえ?」 瞬殺だ。少年は盗賊のナイフを持った腕を足で蹴る。盗賊はナイフを落とし、少年は腰に付けていたナイフで喉を横に切り抜いた。 その状況だけなら、別に驚くほどじゃない。絶対サラのほうが強い。 だが、少年から放たれる威圧感。それにこの場にいる人間は押されているのだった。 先ほどの盗賊だってそれに耐え切れなくて襲い掛かったのが正しいところだろう。 「俺は盗賊さんたちの味方しに来たんですけど?」 そう少年が言った瞬間、少年の方にサッカーボールほどの火の玉が三つ飛んできた。 「ふふっ、戦闘開始ですね」 少年は火の玉を腰に付けていた腕の半分くらいの長さの棒で叩く。火の玉は坊に触れた瞬間消えてしまった。 少年はすばやくサラのほうへと走り出した。火の玉を生み出したのはサラだ。 盗賊たちの頭の中に『とりあえず、あいつは後回し』という思考が生まれたのかどうなのかはよく分からないが残りの盗賊たちが俺とマナのほうへ向かってきた。 「あっちから倒せよっ」 「うっせー。とりあえずお前たちから倒すに決まってんだろっ!」 「逃げたほうがいいと思うんですけど……。普通」 確かにそうだよな。マナの言うことはもっともだ。引き際考えろよ。 「頭の敵だー」 死んでないし。 ともかく俺とマナで連中を何とかした。何かを意識してる余裕はなかったし、大変だったんだ。しょうがないだろ。うん。 俺もマナもたいしたって程には傷ついていなかったが、いくつも細かい傷があった。簡単に手持ちのアーティファクトで傷を癒す。 「あっち、すごいね……」 サラは確かにすごかった。 というか別世界だった。 ハイスピードで構成される魔術は学校にいた魔術の教師の数倍も早いし、威力があった。相手の少年もそれに動じることなくそれを打ち消す。 しかも、その間にも剣と棒の打ち合いがあり、はっきり言えば、間に入れない。 見てるしかない感じだ。 「むしろ暇だな。勉強ばっかで目が疲れてるし木でも見とくかな?」 「さすがにそれはどうかと思うよ、お兄ちゃん……」 俺らの周りだけほんのりとした空気が漂い始めた頃、だんだんとサラが押され始めた。 「メイジマッシャーの類か……。嫌なタイプね……」 「まっ、俺は魔術師と精霊術士専門の殺し屋ですから?」 「名前とか、名乗ったらどう?」 「ケインです。一応、黒の狼って集まりの一員ですけど、知ってます? 結構マイナーかも?」 「メジャーなとこじゃない。貴族の御用達ね……」 「普段は不倫相手とか政敵とか殺すんですけどねえ。たまーにあんたみたいな人を相手にするときもある」 ふうむ。どうやら相性が悪いようだな。相性は結構大事だ。例えば、エルフという人種がいるが彼らは基本的に普通の人より魔力が高い。だが、研究者にはなれても魔術師にはなれない。なぜなら彼らは森の魔力だけしか無く、他の魔力を一切持たないからだ。 森の力を封じられればあとはただの人だ。 メイジマッシャーのアーティファクトはかなりの貴重品だ。アーティファクトの中でも最上級のものだろう。殺し屋が持つには過ぎた道具だが、実力を見ているとそうでもないかもと納得できなくも無い。確かあれは持っているだけで近くの人間は魔力が弱まり、術のスピードが落ち、棒に触れる魔力を霧散する効果があったはずだ。 それに、ケインは魔術師を殺す技能に特化しているのだろう。間合いのとり方やら色んなものがサラにやりにくいようにやりにくいようにとはこんでいる。 ……ていうか暇だ。俺は腰を下ろした。 「お兄ちゃん……」 ため息疲れた。 「だが妹よ。あの状況でどうないせいっつーんだ? 変に手を出すと逆に迷惑になりそうだ」 その言葉に何かひらめいたようでマナは馬車に戻り、バックを持ってくる。 「はい、お兄ちゃん!」 渡されたのは、……十セットの割り箸だった。ついでに言えばなぜか鉄の割り箸まであった。 「なにゆえ」 「便利でしょ? お兄ちゃんなら大丈夫。多分」 「うむう。多分が気になるがまあ、やってみるか」 割り箸を手に握りながら集中する。サラとケインは距離をとることが無い。例えサラが距離をとろうとしてもケインがそれを許さないからだ。おかげで強力な魔術や精霊術は使えず、弱いものは威力が無いし簡単に打ち消される。 じっと見つめる。 一瞬、サラがケインの棒を弾き距離が開く。 「なっ!?」 突然の攻撃に驚いたようだ。かわされはしたが、体勢的には有利になったようだ。少しサラが押している。もう一発投げてみたが、ケインの近くで割り箸は燃えた。 もう、意識をこちらにも向けているようで残りのすべてを打ってもだめそうだった。 「もうだめだな」 「お兄ちゃん! 割り箸が光ってる!」 はあ。何言ってるんだか? そう思った。だが光っていた。割り箸は光っていた。 「光ってるな。マナ。なんていうか、俺、疲れてきた」 「う〜ん。お兄ちゃん。それはいいけどサラさんが大変なんだから真面目にやろうよ」 そうは言ってもね。とりあえず俺は鉄の割り箸を手に取る。淡く、青い光は手で握っても光が漏れている。暗い森を照らす青い光。幻想的といえないでもないが、割り箸から出てると思うとなんだかガックシだ。 「どうすんだ、これ……」 ぱかっ。微妙にコミカル? な効果音が聞こえ、割り箸は割れた。 「割れちまっただよ。マナさんや」 とりあえずボケてみた。 「はいはい。お兄ちゃんや。とりあえず投げてみたらどうかな。もしかして効果あるかも?」 「うむ。投げてみる」 分かれた箸を一本ずつ左右の手で持つと、また集中し、そして投げた。 「がはっ」 投げた箸はさっきと同じく燃え尽きると思いきや、威力を損なうことなく、ケインの肩に二本刺さる。 その生じた隙をサラが見逃すはずも無く、見事な動きでケインを取り押さえた。 「やるね。……まさか金の魔王じゃなくてただのお兄さんにやられるとは思わなかったよ」 とりあえず、バトルは終結したのだった。 |
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