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◆白夜◆ |
第三十九話 |
「これで良いの?」 ユーリウスの姿のままルージュは言った。姿形……そして声は誰が見聞きしても王子のそれであるのに、若い女の口調であるのが違和感を生じさせている。 「ああ、これでいいさ。本人にまで言われたんだ。迷うまい」 「騙すのは……気が引ける」 下ろされた顔には影ができる。顔を上げ、ルージュは何をするでもなく王宮の長い廊下から窓の外の風景を眺めた。老婆もまた近寄るでもなく、かといって話すでもなく。目を閉じ、ただ黙った。 「王子? どうなされました?」 どこぞの部屋のシーツを山のように抱えながら、城仕えがやってくる。 「いや、なんでもないよ。ちょっと気分が沈んでいてね。ああ、このお婆さんは占い師なんだ。貸してあげる。占ってもらうといい」 にっこりと微笑み、ルージュは廊下を歩いてゆく。老婆のため息と、あの城仕えと一緒にルージュの逆に歩いてゆく音が聞こえた。 廊下を曲がり、辺りに誰もいないのを確認し、ルージュは変身を解いた。 「……私は女は嫌い、だ」 ぶつぶつと呟きながら歩くルージュの姿は王城には不似合いのようで誰かの横を通り過ぎるたびに視線を感じる。誰にも呼び止められないのは組織から渡された宮廷召喚士の印をつけているからだが。 「不機嫌みたいだね。ルージュ」 「……出た。かわいい女……」 不機嫌も極まったかのような顔を見せるも赤目の天使はなんでもないかのようにくくっと笑う。 「どう、順調?」 「こんなこと頼むなんて……嫌いだ、ルカなんて」 「変わったすね方するなあ。……まあ、君はボクを嫌いにはなれそうにないんだし、仲良くしようよ。ねえ? この顔、好きでしょう?」 ルージュはそっぽを向くと静かな低い声を出した。 「……次は、何をする?」 ルカは怪しく微笑む。 「今はまだ。そう何も」 ◆◆◇◆◆ 「……てなわけなんだよ! ルカ!」 「……あ〜、そう」 王子の悩みを聞いてからマティアは胸が燃えるような闘魂を感じていた。それはさながらお姫様を救う勇者の思いにも似て。ただ、その対象が王子なだけで。 そんな熱く激しい思いと王宮召喚士になれた事、そしてその扱いのよさに今絶好調だった。そんなわけでルカをはじめて見るお姉さん、お兄さんな先輩がたにいい具合に可愛がられていた彼女をひっ捕まえ部屋までつれてきた。語りつくそうとマシンガンでトークするも、いつまでたっても玉は尽きそうになかった。 さすがにルカもぐったりと疲れはじめてきた様だ。ポツリと許しを請う。 「……勘弁して」 「ま〜だまだぁ! あのときの王子様ったらね、まつげもホントに長くって! 悲しみをこらえる様子がホントに……」 「あー、あー、あ〜。……それよりもさ、竜の勉強については進んでるわけ? 継承の儀式に割りはいるにもどういうのかはまず知っておかなきゃならないでしょ?」 マシンガンの発射がピタリととまる。ルカを押し倒さんばかりの勢いだった彼女だが、急にぐたりと寝転ぶ。ソファーのクッションをかき集めて頭を隠す。 逆にルカはその顔をにんまりと微笑ませ、指をわきわきと動かし、彼女の両脇に配置。アタックした。 ――爆笑。 「ひ、ひろいのぉ」 「ぶひぶひ笑ってた子に言われたくないなあ。まあ、そんなことだろうと思ったよ。しょうがない。授業だ」 マティアはあからさまにいやそうな顔をする。ルカがきっと睨む。 「いい? どの国でも大体継承の儀式はあまりおおっぴらにはやらない。もちろん、継承妨害や竜を奪われないためだ。でもまあ、継承がすんだ後には竜王際ってお祭りが開かれるんだけどね。だから神竜継承の儀は人々の関心が薄く、王族や他国の関心高い行事だ。今は平和だから祭りの前の面倒ごとって空気があるけどそれでも警戒のため、召喚士や聖騎士が配備される。ボクらも当日は王城内にいるわけだけど、時間が近くなったら迎えに行くからね。ま、そんなに心配はないよ。――くれぐれも、だれにも、王子にもこの計画は話さないようにね」 「わかってますよ〜」 「わかってんのかねぇ」 人生は幸せだと言わんばかりに楽しそうに微笑んでいるマティア。それを見るルカの表情はどこか不機嫌であった。 「……ボクもそんな頃があった」 「え?」 我慢しているのに苦しくて、苦しくて洩れてしまったようなか細い声にマティアは振り返るものの、すでに部屋には誰もいなかった。 「そうとも。最後に誰よりも幸せになるために。かなえられなかった願いをかなえる為に。……今を越えてゆこう」 |
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